ヨーキョクデイ

多趣味で器用貧乏なブログ

調和数列の積の部分分数分解とラプラス変換に関する雑多

序(昔話)

さかのぼること高 3 時代、とあるクラス仲間が熱心に部分分数分解していた。ちょっと難しめの数列や積分の問題で部分分数分解は便利ツールとして使用されていたわけが、高々 3 つくらいの積しか登場しなかったはずではある。そこで彼は何を思ったのか、6 つの積バージョンの一例を計算していたのだが、次の式がターゲットだった。

\displaystyle \frac{1}{n(n+1)(n+2)(n+3)(n+4)(n+5)}

これは興味深いとその結果を持ち帰り、検算してみたところ、彼の計算ミスを発見するわけだが、結果として面白い規則性を発見することになる。

\displaystyle \frac{1}{120} \left( \frac{1}{n}-\frac{5}{n+1}+\frac{10}{n+2}-\frac{10}{n+3}+\frac{5}{n+4}-\frac{1}{n+5} \right)

なんということだろうか、二項係数の交代和のような何かが出てくるのだ。そして 120 とは何か。そこで、全貌を見るがためにこれの一般化を試みた。すなわち、調和数列の項の積の部分分数分解を試みようという話である。そして証明まで一気にやってしまったのは覚えている。

結果を先に書くと、より一般的な形として次のようになることが証明できた。

\displaystyle \prod_{k=0}^{n-1} \frac{1}{a+kd} = \frac{1}{(n-1)! \, d^{n-1}} \sum_{k=0}^{n-1} \frac{(-1)^k \binom{n-1}{k}}{a+kd} \;\;\; (n = 1, 2, 3, \ldots; d \neq 0)

調和数列の積の部分分数分解

当時は未熟だったゆえに上記の式は多少 overkill で、これを変形することで一般性を失うことなく簡潔な表記ができることが今回わかった。

公式

非負整数  n複素数  z について、次の等式が成り立つ。

\displaystyle \prod_{k=0}^{n} \frac{1}{z+k} = \frac{1}{n!} \sum_{k=0}^n (-1)^k \binom{n}{k}\frac{1}{z+k}

ただし、 z \neq 0, -1, -2, -3, \ldots, -n。また、 \binom{n}{k} は二項係数。

証明

往時は前者のパターンを証明したが、後者の公式を改めて数学的帰納法で証明するが、先にいくつかの道具を用意しておくことにしよう。

道具 1:通分と部分分数分解

\displaystyle \frac{1}{x} - \frac{1}{y} = \frac{y-x}{xy}

ゆえに

\displaystyle \frac{1}{xy} = \frac{1}{y-x} \left(\frac{1}{x} - \frac{1}{y} \right)

道具 2:二項係数の性質

\begin{align}
\binom{n}{k} &= \frac{n!}{(n-k)! \, k!} \\
&= \frac{n}{n-k} \cdot \frac{(n-1)!}{(n-k-1)! \,k!} \\
&= \frac{n}{n-k} \binom{n-1}{k}
\end{align}

ゆえに

\displaystyle \binom{n-1}{k} = \frac{n-k}{n} \binom{n}{k}

道具 3:二項定理の利用

二項定理

\displaystyle (x+y)^n = \sum_{k=0}^n \binom{n}{k} x^{n-k} y^k

において、 x=1, y=-1 として、

\displaystyle (1-1)^n = \sum_{k=0}^n \binom{n}{k} 1^{n-k} (-1)^k

すなわち

\displaystyle \sum_{k=0}^n (-1)^k \binom{n}{k} = 0

数学的帰納法による証明

まず  n=0 のとき、左辺について、

\displaystyle \prod_{k=0}^0 \frac{1}{z+k} = \frac{1}{z}

また、右辺について、

\displaystyle \frac{1}{0!} \sum_{k=0}^0 (-1)^k \binom{0}{k} \frac{1}{z+k} = 1 \cdot (-1)^0 \binom{0}{0} \frac{1}{z} = \frac{1}{z}

であるから、成り立つ。

次に、 n=m のときに成り立つと仮定すると、

\displaystyle \prod_{k=0}^m \frac{1}{z+k} = \frac{1}{m!} \sum_{k=0}^m (-1)^k \binom{m}{k} \frac{1}{z+k}

である。この両辺に  \frac{1}{z+m+1} を掛けることを考える。

すると、左辺について、

\displaystyle \left( \prod_{k=0}^m \frac{1}{z+k} \right) \cdot \frac{1}{z+m+1} = \prod_{k=0}^{m+1} \frac{1}{z+k}

である。右辺について順を追って変形していく。

\begin{align}
& \frac{1}{m!} \left[ \sum_{k=0}^m (-1)^k \binom{m}{k} \frac{1}{z+k} \right ] \cdot \frac{1}{z+m+1} \\ 
=& \frac{1}{m!} \sum_{k=0}^m \left[ (-1)^k \binom{m}{k} \frac{1}{z+k} \cdot \frac{1}{z+m+1} \right ] \\
=& \frac{1}{m!} \sum_{k=0}^m \left[ (-1)^k \binom{m}{k} \frac{1}{m+1-k} \left( \frac{1}{z+k} - \frac{1}{z+m+1} \right) \right ] \\
=& \frac{1}{m!} \sum_{k=0}^m \left[ (-1)^k \frac{m+1-k}{m+1} \binom{m+1}{k} \frac{1}{m+1-k} \left( \frac{1}{z+k} - \frac{1}{z+m+1} \right) \right ] \\
=& \frac{1}{(m+1)!} \sum_{k=0}^m \left[ (-1)^k \binom{m+1}{k} \left( \frac{1}{z+k} - \frac{1}{z+m+1} \right) \right ] \\
=& \frac{1}{(m+1)!} \left[ \sum_{k=0}^m (-1)^k \binom{m+1}{k} \frac{1}{z+k} - \frac{1}{z+m+1} \sum_{k=0}^m (-1)^k \binom{m+1}{k} \right ] \\
=& \frac{1}{(m+1)!} \left[ \sum_{k=0}^m (-1)^k \binom{m+1}{k} \frac{1}{z+k} - \frac{1}{z+m+1} \left( \sum_{k=0}^{m+1} (-1)^k \binom{m+1}{k} - (-1)^{m+1} \binom{m+1}{m+1} \right) \right ] \\
=& \frac{1}{(m+1)!} \left[ \sum_{k=0}^m (-1)^k \binom{m+1}{k} \frac{1}{z+k} - \frac{1}{z+m+1} \left(0 - (-1)^{m+1} \binom{m+1}{m+1} \right) \right ] \\
=& \frac{1}{(m+1)!} \left[ \sum_{k=0}^m (-1)^k \binom{m+1}{k} \frac{1}{z+k} + (-1)^{m+1} \binom{m+1}{m+1} \frac{1}{z+m+1} \right ] \\
=& \frac{1}{(m+1)!} \sum_{k=0}^{m+1} (-1)^k \binom{m+1}{k} \frac{1}{z+k}
\end{align}

よって、 n=m+1 のときも成立する。ゆえに任意の  n について成立することが示された。

補足

今回示した公式の左辺は上昇階乗冪の逆数として書けて、

\displaystyle \frac{1}{z^\overline{n+1}} = \frac{1}{n!} \sum_{k=0}^n (-1)^k \binom{n}{k} \frac{1}{z+k}

である。

ここまでは当時の記述を書き直したものだ。今思えばこれが数学趣味の原点となった数式いじりなのだ。

グーグル先生によると、背景として次のものが存在するらしい。

二項変換

次のようにして数列  \{a_n\} から数列  \{s_n\} をでっち上げることを二項変換と呼ぶらしい。

\displaystyle s_n = \sum_{k=0}^n {(-1)}^k \binom{n}{k} a_k

Melzak の公式

非負整数  n と高々  n 次の多項式  f(x) について、次の等式が成り立つらしい。

\displaystyle \sum_{k=0}^n {(-1)}^k \binom{n}{k} \frac{f(x-k)}{y+k} = n!\,f(x+y) \prod_{k=0}^n \frac{1}{y+k}

ただし  y \neq 0,-1,-2,\ldots,-n。これを Melzak の公式あるいは Melzak の恒等式と呼ぶらしい。二項変換の例である。

arxiv.org

今回証明したものは  f(x) = 1 の例であって、上記によるとこの等式は well-known らしい。

arxiv.org

調和数列の積の部分分数分解と Laplace 変換

数列といえば z 変換かもしれないが。ここではとにかく形式的に式をいじることにする。

Laplace 変換の定義

 f(t) の(片側)Laplace 変換  F(s) = \mathcal{L} [f] を次のように定義する。

\displaystyle F(s) = \mathcal{L} [f] = \int_0^{\infty} f(t) e^{-st} dt

指数減衰

ここでは唐突ながらも  s の関数として

\displaystyle F(s) = \frac{1}{s+\alpha}

を考える。これを逆 Laplace 変換した  f(t) は、

\displaystyle f(t) = \mathcal{L}^{-1} \left[ F(s) \right] = e^{-\alpha t}

となる。単位ステップ関数を掛けるべきかもしれないが、面倒なので省略した。

部分分数分解の公式

上記を踏まえて、調和数列の積の部分分数分解の公式の逆変換を考えると、

\begin{align}
& \mathcal{L}^{-1} \left[ \sum_{k=0}^n (-1)^k \binom{n}{k} \frac{1}{s+k\alpha} \right] \\
=& \sum_{k=0}^n (-1)^k \binom{n}{k} \mathcal{L}^{-1} \left[ \frac{1}{s+k\alpha} \right] \\
=& \sum_{k=0}^n (-1)^k \binom{n}{k} e^{-k\alpha t} \\
=& \sum_{k=0}^n \binom{n}{k} (-e^{-\alpha t})^k \\
=& (1 - e^{-\alpha t})^n
\end{align}

となる。これにより、次のように Laplace 変換できるだろう。

\begin{align} \mathcal{L} \left[ (1 - e^{-\alpha t})^n \right] &= \sum_{k=0}^n (-1)^k \binom{n}{k} \frac{1}{s+k\alpha} \\
\end{align}

序盤に書いた煩雑なバージョン、

\displaystyle \prod_{k=0}^{n-1} \frac{1}{a+kd} = \frac{1}{(n-1)! \, d^{n-1}} \sum_{k=0}^{n-1} \frac{(-1)^k \binom{n-1}{k}}{a+kd}

を書き直して、

\displaystyle \prod_{k=0}^n \frac{1}{a+kd} = \frac{1}{n! \, d^n} \sum_{k=0}^n (-1)^k \binom{n}{k} \frac{1}{a+kd}

となるので、 d \alpha に、 as に置き直せば、

\displaystyle \mathcal{L} \left[ (1 - e^{-\alpha t})^n \right] = n! \, \alpha^n \prod_{k=0}^n \frac{1}{s+k\alpha}

という具合で積の形で書けることがわかる。特に  n=1 のときバージョンの

\displaystyle \mathcal{L} \left[ 1 - e^{-\alpha t} \right] = \frac{1}{s}-\frac{1}{s+\alpha} = \frac{\alpha}{s(s+\alpha)}

は、力学的には空気抵抗がある場合の落下速度や、電気回路的には RC 直列回路におけるコンデンサの電圧についての過渡現象なんかを表す微分方程式を、Laplace 変換を使って解こうというときあたりにモロに出てくる形であるわけではある。

そもそも Laplace 変換表を眺めていたら今回の部分分数分解の公式を思い出して、この記事を書くことになったのだが、この節はおまけという名の実は本編なのだ。

 n 乗バージョンに何か物理的意味はあるのだろうか。立ち上がりがなまってくる感じだと思うが。確率論方面に何かありそうな感じではある。また、連続なパラメータであるほうが面白そうではある。

Borel 変換と総括的な応用

Borel 総和法というのがあるらしい。

Borel 変換

次のような形式的冪級数  f(z) を考える。

\displaystyle f(z) = \sum_{k=0}^\infty a_k z^k

 f(z) の Borel 変換  \mathcal{B} [f] (t) を、次のように定義する。

\displaystyle \mathcal{B} [f] (t) = \sum_{k=0}^\infty a_k \frac{t^k}{k!}

Borel 変換 と Laplace 変換

冪乗を階乗で割ったやつ

ところで、唐突ながらも Laplace 変換について、

\displaystyle \mathcal{L}^{-1} \left[ \frac{1}{s^{n+1}} \right](t) = \frac{t^n}{n!}

であったから、

\displaystyle \mathcal{B} [f] (t) = \sum_{k=0}^\infty a_k \mathcal{L}^{-1} \left[ \frac{1}{s^{n+1}} \right](t)

である。

Borel 変換の再構築

上記の結果から、 f(z) について、 z= 1/s として両辺に  1/s を掛ける。

\begin{align} \frac{1}{s} f \left(\frac{1}{s} \right)
&= \frac{1}{s} \sum_{k=0}^\infty a_k \frac{1}{s^n} \\
&= \sum_{k=0}^\infty a_k \frac{1}{s^{n+1}} 
\end{align}

さらに、両辺を(形式的に)逆 Laplace 変換し、和と積分を交換する。

\begin{align} \mathcal{L}^{-1} \left[ \frac{1}{s} f \left(\frac{1}{s} \right) \right]
&= \mathcal{L}^{-1} \left[ \sum_{k=0}^\infty a_k \frac{1}{s^{n+1}} \right] \\
&= \sum_{k=0}^\infty a_k \mathcal{L}^{-1} \left[ \frac{1}{s^{n+1}} \right] \\
&= \mathcal{B} [f]
\end{align}

となるから、Borel 変換の正体が見えた。

Borel 和

上記の冪級数  f(z) とその Borel 変換  \mathcal{B} [f](t) に対して、 f(z) の Borel 和  S[f](z)を、

\displaystyle S[f](z) = \frac{1}{z} \mathcal{L} [\mathcal{B} [f](t)] \left(\frac{1}{z} \right)

で定義する。

逆 Borel 変換

性質のよい  f(z) の Borel 和  S[f](z) は再び  f(z) に戻り、すなわち、

\displaystyle S[f](z) = f(z) = \frac{1}{z} \mathcal{L} [\mathcal{B} [f](t)] \left(\frac{1}{z} \right)

である。この場合これは  \mathcal{B} [f](t) f(z) に戻す変換となっている。ここで、 t の関数  f^*(t) について、逆 Borel 変換  \mathcal{B}^{-1} [f^*](z) を次のように定義する。

\displaystyle \mathcal{B}^{-1} [f^*](z) = \frac{1}{z} \mathcal{L} [f^*] \left(\frac{1}{z} \right)

こんなところでも Laplace 変換をフル活用する。

母関数と Borel 変換

数列  \{a_n\} について、通常型母関数  g(x) を次のように定義する。

\displaystyle g(x) = \sum_{k=0}^\infty a_k x^k

同様に、指数型母関数  g^*(x) を次のように定義する。

\displaystyle g^*(x) = \sum_{k=0}^\infty a_k \frac{x^k}{k!}

先ほどの Borel 変換の話はここに響いてきて、つまり、通常型母関数を Borel 変換することで指数型母関数を得られるといううれしさがあるのだ。

第 2 種 Stirling 数の母関数

 S(n,k) で第 2 種 Stirling 数を表すとする。ここで、 k=m と固定したときの母関数を考える。

指数型母関数

指数型母関数  g^*(x) を考える。

\displaystyle g^*(x) = \sum_{n=0}^\infty S(n,m) \frac{x^n}{n!}

収束半径は無限大であり、閉じた式としては次のようになる。(Ref. 上記 26.8.12)

\displaystyle g^*(x) = \frac{(e^x-1)^m}{m!}

指数型母関数から通常型母関数へ

通常型母関数  g(x) は、

\displaystyle g(x) = \sum_{n=0}^\infty S(n,m) x^n

で表され、この Borel 変換によって指数型母関数が得られているわけで、つまり、

\displaystyle \mathcal{B}[g(z)] = \frac{(e^t-1)^m}{m!}

という関係が得られたということだ。この右辺についての逆 Borel 変換を考えよう。少しさかのぼって、

\displaystyle \mathcal{L} \left[ (1 - e^{-\alpha t})^n \right] = n! \, \alpha^n \prod_{k=0}^n \frac{1}{s+k\alpha}

であったことを思い出すと、 \alpha = -1 として、

\displaystyle \mathcal{L} \left[ (1 - e^t)^n \right] = n! \, (-1)^n \prod_{k=0}^n \frac{1}{s-k}

であり、すなわち、

\displaystyle \mathcal{L} \left[ \frac{(e^t - 1)^n}{n!} \right] =  \prod_{k=0}^n \frac{1}{s-k}

である。すると、Laplace 変換を経由して所望の逆 Borel 変換、すなわち  g(z) の Borel 和  S[g](z)機械的に算出できて、

\begin{align} S[g](z)
&= \mathcal{B}^{-1} \left[ \frac{(e^t-1)^m}{m!} \right] \\
&= \frac{1}{z} \left. \mathcal{L} \left[ \frac{(e^t-1)^m}{m!} \right] \right|_{s=\frac{1}{z}} \\
&= \frac{1}{z}  \prod_{k=0}^m \frac{1}{\frac{1}{z}-k} \\
&= \frac{1}{z}  \prod_{k=0}^m \frac{z}{1-kz} \\
&= \prod_{k=1}^m \frac{z}{1-kz}
\end{align}

となり、これは通常型母関数の閉じた形だ。すなわち閉じた形のまま指数型母関数を通常型母関数に写すことができた。まさに総決算である。

通常型母関数

通常型母関数  g(x) を考える。

\displaystyle g(x) = \sum_{n=0}^\infty S(n,m) x^n

収束半径は  1/m であり、その下で閉じた式は次のようになるという。(Ref. 上記 26.8.11)

\begin{align} g(x)
&= \frac{x^m}{(1-x)⁢(1-2⁢x)⁢ \cdots ⁢(1-m⁢x)} \\
&= \prod_{k=1}^m \frac{x}{1-kx}
\end{align}

雑感

等差数列の項の積は Stirling 数と関連があるわけで、その性質を眺めていていたら母関数に見覚えのある形が現れていて、そこから深掘りする中でこの変換の存在を知り、この応用例を書いたわけだが。

遠くなってしまった昔に見つけたものを再考し、さらに Laplace 変換というスイスアーミーナイフでけちょんけちょんにぶん殴っては切り刻むことにより、新たな知見が得られて、それもう脳内麻薬がドバドバなのだ。

数学的な厳密性は考えずに、形式的な式変形を行ったのだが、ヘヴィサイドさんの名言を言い訳として使わせてほしい。今回のテーマにちなんで。

ja.wikipedia.org